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生活習慣の改善

1.はじめに

 生活習慣の改善は、食事、運動、生活活動、嗜好性、睡眠、休養、喫煙、アルコール、ストレスなどを総合的にターゲットにするもので、その効果は、薬物療法を上回り、大いに期待されている。事実、米国で3200人のIGTに対照、メトフォルミン、生活習慣改善群の3群比較で、2型糖尿病の発症を検討した。

生活習慣群は、7%の体重減少と週150分の身体活動を実践したが、58%糖尿病の発症を予防し得た。一方メトフォルミン群は、31%であった(1)。

 フィンランドの臨床研究でも、糖尿病の危険性の高い群で、生活習慣の改善が58%の予防効果を有し有効であった、生活習慣の要因は、食物繊維、果物および野菜摂取の増加と脂肪食品の減少、運動、と減量であった(2)。

実践に際しては、医療スタッフが1-2ヶ月に1度面接指導し、ここの例に即した指導が必須であり、担当医師、管理栄養士、看護士、検査技師、ケースワーカー、保健婦、糖尿病療養指導士が役割を担うことが重要であり、チームプレイが役立つ所以である。

2.生活活動度

 明らかな運動習慣は、血糖、脂質、血圧の安定化のみならずインスリン感受性の増強に有効であることが知られている。安静的な行動以上にエネルギー消費を必要とする活動の時間数と頻度を活動度とし、Pima Indianの方の5才と10才における、身体計測、エネルギー消費と空腹時血糖、インスリン値より求めたインスリン感受性指標を検討すると、生活活動度が5才に比し10才での活動度が増加している例では、感受性も良好になり両者に有意相関が見られた( 図 1 C )(3)。安静時代謝率との間には、相関はみられなかった(図1 D)。AおよびBは5才に比し増加した体重あるいは体脂肪とインスリン感受性の低下度が相関することがしめされている(図1 A、B)。学校、大学など通学年代については、組織としての体操やリクリエーション、体育祭など活動度増強への配慮と努力が必要である。個人レベルに於ける活動度の増加は、外来通院、入院時の指導が有効である。私たちの成績では、1日8000歩以上の歩行により、明らかなインスリン感受性の増強が見られた。

 2-3時間以上のサッカ-練習などの運動を週2-3回以上行っている大学生について、私たちが開発したクッキーテスト(75g小麦粉澱粉、24gバター)( 4)を施行して、耐糖能、食後高脂血症、高インスリン血症、インスリン抵抗性を同時評価した。 

血糖の上昇は運動群で明らかに低く(図2)、糖質摂食后もほとんど増加しない。インスリンも低値で(図 3)インスリン感受性が高いことが理解される(図4)。インスリン感受性は糖質負荷時の血糖面積とインスリン面積の積或は、インスリン面積が指標として有意義である( 5 )。脂肪の処理能も良く、脂肪摂食後も血中にTG、RLPの増加が見られなかった。

 AT(嫌気性閾値)は、非運動郡では脈拍118で、運動習慣群では135で達成された。各々6.5,8.4メッツであった。生活習慣病対策としての運動習慣、活動性の推奨は、AT前後までの有酸素運動である。最大酸素消費は、各々18,25メッツで得られ、脈拍180,エネルギー消費は1日非運動群で18000kcal、運動群で25000kcalであった(表 1 )。

3.嗜好習慣

a.喫煙

タバコは肺がん、食道がん以外に、循環器疾患の強力な危険因子である。

主たる原因成分はニコチンであるが、一部紙成分の燃焼物も関与する。パイプタバコが紙タバコに比し、有害性が少ない説も知られている。

喫煙は、血管収縮、血栓性の亢進、血管壊死、HDL-コレステロールの低値、作用を有している。成人男性の喫煙率は英国27%,米国 26%、スエーデン19%に比し、日本は50%と約2倍高頻度である。気道上皮から肺ガンが発症する機序は、喫煙により、気道上皮の対立遺伝子の欠失が起き、P53癌抑制遺伝子の突然変異、メチル化、テロメラーゼの活性亢進が起き、異形成から癌へと変化する。

 喫煙はインスリン抵抗性を惹起することは知られており、禁煙がコントロールを良くするかについて下記の成績を紹介する。平均60才の糖尿病症例(34名、1型 7名、2型 27名)で平均24本/日喫煙習慣あり、HbA1cは7.7±2.2%であったが、禁煙1年後7.0%±1.6%にコントロールされた( 6 )。喫煙と糖尿病が合併すると、心血管危険度は12倍となる。

禁煙指導

 外来などでの、禁煙指導のガイドラインとして、5Aアプローチが知られている(表 2)(7)。喫煙の健康に対する影響を具体的証拠とともに説明し、禁煙を強く促す。禁煙する意志のある方に、カウンセリング、計画の作成、ニコチン代替療法を紹介する。代替療法では、1.7倍禁煙し易いことが、知られている。ニコチンパッチとガムがあり、前者は、朝一回の貼り替えで、安定した血中濃度がえられ、ガムでは、喫煙欲求に対し、早い血中濃度が得られるので、症例によっては、併用し、禁断症状に対処する。現在では、薬局での購入が可能である。

禁煙外来もあり、2-3週間に一度から始め、1-2ヶ月に1度で半年での禁煙を目指す。

b.アルコール

 我が国の飲酒人口は7000万人を超すと思われる。大量飲酒者は、220-240万人と想定され、1日日本酒3合(ビール 3本、ワイングラス5杯、ウイスキー シングル4-5杯)以上飲酒者は、男性4%、女性0.3%に見られる。臓器障害や依存症も多く見られ、高血圧とくに収縮期血圧の増加、虚血性心疾患、心筋症、不整脈、高脂血症、脳血管障害の温床となる。アルコール性脂肪肝、肝炎、肝硬変が起こりやすく、肝硬変の1/4はアルコール大量飲用に起因する。アルコールはウイルス性肝炎の病状悪化、肝硬変への進展を促進させるので、禁酒あるいは、日本楢換算0.5合以下の節酒が原則となる。

一方適度の飲酒はストレス解消、心血管系疾患、脳梗塞の予防的効果があるとの報告は多い。適度の飲酒については、欧米の場合、1日40g/日飲用者で血中アヂポネクチン、HDL-cholが増加し、TNFαの低下が報告され( 8 )、1日5-29gのアルコール摂取の男性群で、糖尿病発症頻度が低かった( 8 )。HDL-cholの増加については、直接の有効薬物が無く、運動と適度の飲酒が上昇効果を有するとされている。VLDLの代謝改善やchol逆転送蛋白(RCTP)活性の低下作用も想定されている。

我が国においては、1週間140g以下の飲酒で脳梗塞の発症頻度を下げるとの報告がみられる。日本酒換算0.5-1合程度で、適正体重と適正へそ周り(男性:85cm以下、女性80 cm 以下)を保つ範囲内が適量飲酒の許容範囲と考えられる。

c.休養、ストレス、不眠

 休養、十分な睡眠は健康維持の基本であり、1日に活動・機能を発揮した各種臓器の完全な修復・復元と次の日の活動にたいする準備状況の設定が必須である。2600名の男子従業員を8年間経過観察し、糖尿病の発症を調査したところ、入眠障害、あるいは持続睡眠に障害がある例では、糖尿病の発症がそれぞれ2.98,2.23倍高頻度であった( 9 )。 睡眠障害に伴う交感神経の興奮が耐糖能を障害し、発症を進展したのではないかと想定される。

Surwit らは、2型糖尿病108名を1年間に渡り、ストレスの度合いを評価し、心配やストレスに対しテープ、ストレッチ運動、意識コントロールなどによるトレーニングを施行した群では、HbA1cが1%以上改善した例が34.2%であったのに反し、対照は12%に過ぎなかった( 10 )。ストレス、心配ごとが、血糖コントロールに影響を与えることが明らかにされた。

d.ウーロン茶

お茶は、中国、日本、台湾その他で繁用され、使用がますます増加している。

大別して、green、oolong、black、に分類され、それぞれ未発酵、中間、完全発酵されている。発酵度が強いほどポリフェノール含量が多いが、中国産のウーロン茶は発酵度合が強くポリフェノールの含量が多い。Hosodaらは、男女10名の2型糖尿病(平均罹病期間4.8年、 年齢 61.2才)にウーロン茶15gを1.5リットル/日宛5回に分け1ヶ月摂取した。対照の水摂取群に比し空腹時血糖は229±53.9より162.2±29.7(M±SD)へ有意に低下し(図 5)、フルクトサミンも低下したが、対照群は有意な低下はみられなかった( 11 )。

15g中のカフェインは、352.7mg、ポリフェノール含量は1490mgであった。カフェインはインスリン感受性を低下(エピネフリン増加による)する説や糖尿病予防効果も報告されている。一方ポリフェノールは、インスリン様作用、糖の吸収抑制が報告されているが、正確な機序は明らかでない。

e.Mg、 K

 Mg摂取が255mg/日より、433mg/日まで4段階に分けて検討したところ、高摂取群では、糖尿病の発症が少なく、肥満女性群では空腹時血中インスリン値が低く(図6)、インスリン抵抗性が低いことが示された( 12 )。

Mgは高血圧に対しても抑制的に作用し、Mgの十分な摂取は望ましい。多くの酵素反応を調節し、ATP,ADPはMg塩として生体では存在している。

K摂取の高血圧対策としての有効性も明らかであり、Naに対する拮抗作用、解糖系促進作用も知られている。腎障害が存在すると、むしろ有害となるが、

腎機能正常例では、Kの多い食品の摂取を推奨したい。

f.文献
  1. Diabetes Prevention Program Research group: recuction in the incidence of type 2 diabetes with lifestyle intervention or metformin.
    N Engl J Med. 346:393-403 2002
  2. Tuomilwhro J, Lindstrom J, Erriksson JG et al. Prevention of type 2 diabetes mellitus by changes in lifestyle among subjects with impaired glucose tolerance. N engl J Med 344: 1343-1350 2001
  3.  Gunton JE, Wilmshurst E, Fulcher G et al cigarette Smoking Affects Glycemic control in DiabetesDiabetes Care 24,796-797 2002
  4.  原納 優、 足立 友美、名引 順子 他 生活習慣病代謝諸因子の早期
    検出と病態解析のためのクッキーテストの開発とその意義 臨床病理 52、 55-60 2004
  5.  Takeuti M,Kanazawa A, Harano Y et alEvaluation of factors during OGTT to correlate insulin resistance in non-diabetic subjects. EndocrJ 2000 47 535-542 2000
  6.  Gunton JE, Davies L, Wilmshurst E et al. Cigarette smokingaffects glycemic control in diabetes Diabetes Care 24 796-797 2002
  7. 中村 正和 生活習慣と健康(たばこと健康)―効果的な禁煙指導
    Clinician 50 521 560-582 2003
  8. Sierksmma A, Heine RJ, Pate H et al. effect of moderate alcohol consumtion and adiponectinh, tumore necrosis factor ?α1 and insulin sensitivity  Diabetes Care 27 184-189 2004
  9. Kawakami N, takatsuka N and Shimizu H Sleep disturbance and onset of type 2 diabetes Diabetes Care 27 282-283 2004
  10. Surwit RS, Feinglos MN, Tilberg MAL et al Stress management improves long-term glycemic control in type 2 diabetes Diabets Care 25 30-34 2002
  11. Hosoda K, Iha M, Wanga MF, et al Antihyperglycemic effect of oolong teas in type 2 diabetes Diabetes Care 26 1714-1718 2003
  12.  Song Y, Buring JE, Manson J E, Liu S Dietary magnesium intake in relation to plasma insulin levels and risk of type 2 diabetes in women. Diabetes Care 27 59-65 2004
  13. 原納  優、 木村 祐子、吉村 安崇: 生活習慣病とは 生物資料分析 23:161-166 2000
g.資料(重要表・図)
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